終活事始め

最大の終活は、健康寿命をいかに長く維持し、周りに負担・迷惑をかけない取り組みをすることだと思います。

有酸素運動と無酸素運動

 前回、ミトコンドリアが作り出すATP(アデノシン三リン酸)というエネルギー分子が、全生物の生命活動に必要なものであることを書きました。
 ATPは、安静時から筋に蓄えられており、急な運動時にもすぐに使えるようになっていますが、蓄えられている量には限りがあり、すぐに枯渇してしまうので、新たにATPを作り出す必要があります。


 人間がATPを作る方法は2つです
 1つ目は、酸素を使わず、細胞質の中で糖を分解する過程で生み出す解糖系のもので、生み 出すATPは少量です。
 2つ目は、ミトコンドリアが酸素を使ってATPを生み出すもので、生み出す量は1つ目の十数倍になります。


 有酸素運動は、ATPを体内の糖や脂肪が酸素とともに作り出すことから、有酸素運動と呼ばれます。
 決して、単に、呼吸をしながら運動することではありません。


 無酸素運動は、運動中に呼吸をしていないということではなく、ATPを酸素を使わずに、筋肉中のグリコーゲンや血液や肝臓に蓄えられたブドウ糖から作り出すことからこのように呼ばれています。


 それぞれの詳細は次の通りです。


有酸素運動
 有酸素運動は、食事で摂取したエネルギー源のうち、グリコーゲン(糖質)は主に肝臓や骨格筋に貯蔵され、余った分は中性脂肪として貯蔵されます。
 運動時に貯蔵されたグリコーゲンを二酸化炭素と水に分解し、その過程で産生されたATPをエネルギー源として使います。
 しかし、体内に貯蔵されているグリコーゲン量には限界があるため、グリコーゲンのみでは長時間運動を続けることができません。
 そこで、体脂肪を分解してエネルギー源にする方法に切り替えます。
 体脂肪を分解するには大量の酸素が必要となるため、酸素を取り入れながらエネルギー源を産生するシステムを繰り返します。


 体脂肪の中でも、内臓脂肪は健康に様々な悪影響を及ぼします。
 内臓脂肪自体からアディポサイトカインという炎症物質が分泌され、アディポサイトカインの働きにより、高血糖、脂質異常、高血圧、動脈硬化などが発症、進行します。
 有酸素運動は体脂肪をエネルギー源として使い燃焼させるため、内臓脂肪も同様に減少させることができます。
 内臓脂肪量が減少することでアディポサイトカインの分泌も減少するため、高血糖、脂質異常、高血圧、動脈硬化の予防・改善につながります。有酸素運動には、様々な生活習慣病の原因を予防・改善する効果があります。


 有酸素運動に向いているタイミングは、食後約1.5時間経過してからです。
食事をしてから、血糖値がピークになるのは1~1.5時間後ですので、このときに軽い運動をすることで、食後の高い血糖値や中性脂肪値を抑えることが期待できます。
 食後すぐや胃の中にまだ残っている状態での運動は消化の妨げになるので要注意です。
 また、体脂肪を分解するリパーゼという酵素は、体温が高くなると活性が高まるため、運動で体温が上昇し血流が多くなると、ますます体脂肪を燃焼するようになります


 さらに、有酸素運動では、体脂肪の燃焼に加え、呼吸循環器系の機能の向上が期待できます。
 長時間運動を続けるためには、大量の酸素が必要となりますが、酸素を体内に運ぶためには心臓と肺の働きが重要になります。
 心拍数は上限が決まっているため、より多くの酸素を血流に乗せて送り出すためには、心拍出量を多くすることが必要となります。
 心拍出量の増大のためには、心筋(心臓のまわりの筋)の筋力向上が必要で、それは有酸素運動(持久力)トレーニングで高めることができます。


 そして、今回の最大の疑問である、ウォーキングなどの有酸素運動は多くの酸素を取り込むので、活性酸素の量も多くなるだろうから、健康への影響はどうかということですが、有酸素運動を行うと活性酸素を除去する役割を持つ抗酸化酵素も同時に分泌され、抗酸化酵素の分泌量は活性酸素の分泌量よりも多いとされているので、有酸素運動を行うことは健康維持に繋がるということです。


 ただし、長時間の高負荷な有酸素運動は、活性酸素を増加させて老化を促進する可能性がありますので、やりすぎには注意し、「適度な運動習慣」を心がけることが重要なのだそうです。


無酸素運動
 無酸素運動は、短い時間に大きな力を発揮する強度の高い運動を指します。
 全力もしくはそれに近い筋力を短時間で発揮しやすいのが特徴です。
 筋肉量を増やし基礎代謝を高める運動であり、短時間かつ運動強度の高いものがあてはまります。


 無酸素運動は短時間しか継続することができませんが、大きな力の発揮や速い運動を行うことができるため筋線維の中でも特に速筋(タイプⅡ線維、白筋)が使われます。
 速筋は速い速度で強い力を出すことができますが、酸素を利用したエネルギー生産能力やATP利用効率は低いことが特徴です。


 速筋は加齢にともない萎縮しやすいことも特徴のひとつですが、速筋は無酸素運動の際に働くため、無酸素運動を行うことで年齢に関係なく速筋の筋量・筋力を高めることができます。速筋の筋量・筋力と、障害の有無や転倒リスクには関連があることが明らかになっているため、健康や体力の維持のために無酸素運動は欠かせない運動といえます。


 生活習慣病を予防するためには一定水準以上の体力を維持する必要があります。
 体力の維持には筋力、基礎代謝、循環器機能などが強く関連し、無酸素運動では主に筋力と基礎代謝を向上させることができます。
 体脂肪燃焼や循環器機能の向上には有酸素運動が効果的ですが、中~高強度の無酸素運動を週3日以上習慣的に行うことで体脂肪燃焼、循環器機能の向上が期待できます。
 無酸素運動と有酸素運動を両方しなければいけないということは無く、自分に合った運動を選んで習慣的に行うことが生活習慣病予防に効果的と考えられます。


 短距離走などの無酸素運動をしたあとは息が切れます。
 この状態を「酸素負債」といい、ATPを作り出すために酸素を一時的に借りている形になっています。
 無酸素運動中は酸素を利用せずにATPを作り出すことができますが、その後は利用した分の酸素を体内に取り込む必要があります。
 短距離走などの無酸素運動後に呼吸が荒くなるのは、たくさんの酸素を一気に取り込もうとしているからなのです。


 このような仕組みがあり、無酸素運動後には急激に心拍数や血圧が上がり心臓発作が通常時よりも起こりやすくなります。
 特に高齢者や高血圧の方はいきなり高強度の無酸素運動から始めるよりも、低強度の運動から徐々に強度を上げていくことが推奨されています。


 このようにダイエット目的なら緩やかに長時間運動できる有酸素運動、ウエイト・筋量アップ目的ならパワーがつけられる無酸素運動と使い分けることができます



 ここで、疑問なのが、有酸素運動にしても無酸素運動にしても、ATPを作り出すために、体内の糖や脂肪を消費するのに、これらの運動では何故痩せないかということです。


 私たちの総エネルギー消費量(24時間相当)は、大きく基礎代謝量(約60%)・食事誘発性熱産生(約10%)・身体活動量(約30%)で、身体活動量は、運動によるものと、家事などの日常生活活動ですので、運動はエネルギー消費にあまり寄与していません。


 速歩     20分 100kcal
 ジョギング  30分 210 kcal
 階段上り    5分  32kcal
 掃除     30分 100 kcal
 エアロビクス 30分 150 kcal
 人間は、何と燃費が良いのでしょうか!


 そうすると、基礎代謝を上げるため、筋肉ということになりますが、筋肉が消費するカロリーは基礎代謝の2割程度なのだそうです。


 痩せたいなら、摂取カロリーが消費カロリーを上回る状態では無理なので、食事制限が必要となりますが、体がエネルギー不足になっているところで有酸素運動を頑張ると、基礎代謝を上げるどころか下げることにもなり、痩せにくい状態になるかもしれないので要注意だそうです。


 そして、長時間の有酸素運動はストレスホルモンである「コルチゾール」を過剰に増やしてしまうので、結果、体脂肪がたまりやすく、基礎代謝の低い体になってしまう可能性もあるのでこれも要注意だそうです。


 私たちの総エネルギー消費量に占める運動の割合が低いことについては、疑問が解けないままですが、次の記事を見つけました。


 運動量を増やしても、身体が自動的に別の体内活動に使われるエネルギー消費を抑制するため、必ずしも消費カロリーが増加するとは限らない。
 しかしながら、運動をすることで、炎症やストレス反応といった身体に害を及ぼす可能性のある余剰のエネルギーを転用できていると考えられる。
 運動はカロリーの消費量を変えるものではなく、どう消費するかを変えるものだ。
 食事制限と運動は異なる役割を持ったツールだ。
 食事制限は体重を落とすツールで、運動は体が必要とするそれ以外のすべてを担っている。


 運動は、炎症やストレス反応といった身体に害を及ぼす可能性のある余剰のエネルギーを転用しているとは、これが真実ならすごいことではありませんか!


 それにしても、1日1万歩歩けだとか、いやせいぜい8千歩までだとか、過剰な活性酸素を発生させないよう有酸素運動は30分程度を目安に行うのがお勧めで10分程度の運動を1日3回行っても運動効果は変わらないだとか、長時間の有酸素運動はストレスホルモンである「コルチゾール」を過剰に増やしてしまうので体脂肪がたまりやすく基礎代謝の低い体になってしまう可能性があるだとか、長時間の高負荷な有酸素運動は活性酸素を増加させて老化を促進する可能性があるだとか、一体どうすればいいのでしょうか?


 設定条件は不明ですが、厚生労働省の指針では、有酸素運動を行う時間の目安は150分程度のようです。
 無酸素運動である筋トレは、基礎代謝を上げますし、老廃物が溜まりにくくなったり、肌のターンオーバーが促進されることも分かっていて、活性酸素の材料となる酸素を多く消費しないため、活性酸素の発生量はごくわずかであるので、双方の運動を組み合わせることが大切ということでしょうか。