終活事始め

最大の終活は、健康寿命をいかに長く維持し、周りに負担・迷惑をかけない取り組みをすることだと思います。

源氏物語と紫式部【若紫】

 前回に引き続きです。
 再掲になりますが、源氏物語誕生の背景を考える上で必要な登場人物です。
 ( )内は、「光る君へ」の配役です。


 藤原兄弟は、 道隆(井浦 新)、詮子(吉田 羊)、道長(柄本 佑)、他
 一条天皇(塩野瑛久)は、円融天皇(坂東巳之助)と、詮子(吉田 羊)の子
 一条天皇(塩野瑛久)の后が、道隆(井浦 新)の娘 定子(高畑光希)と道長(柄本 佑)の娘 彰子(見上 愛)、他
 紫式部は、彰子(見上 愛)に使えた女房、定子には清少納言


 時系列です。年は資料により若干の齟齬があります。
 990 定子(977-1,001)14歳で第66代一条天皇(11歳)に入内
    定子は知的でほがらかなので、天皇は深く慕い愛し、会うことを何より楽しみ
    にしていた
  995  定子の父・関白道隆逝去
     996 定子の兄が不敬事件を引き起こし失脚
    定子、身を引き、宮中を離れ、出家
     997 一条天皇、定子を忘れがたく宮中に呼び戻す
    定子、親王出産
     998 紫式部(973-1,019)藤原宣孝と結婚、26歳、宣孝とは20歳以上の差
     999 道長(966-1028)、娘・彰子(988-1074)を12歳で一条天皇に入内さ
              せる
   1000 定子逝去
    彰子、定子の子(親王)の義母となる
 1001 式部の夫・宣孝逝去
    式部、この頃、源氏物語の前身である帚木(ははきぎ)三帖(帚木、空蝉、夕
               顔)を執筆。次第に宮中で話題となる
   1005 式部、道長の要請で宮中に出仕
    道長の命により、今だに亡き定子のことが忘れられない天皇の気持ちを物語の力で
              彰子の方に向けるため、光源氏の物語(帚木三帖)を序章から書き始める
   1008 定子、第68代後一条天皇を出産
   1009 定子、第69代後朱雀天皇を出産
   1011 一条天皇崩御、この時、定子24歳
    第67代三条天皇即位
    1016 彰子の子、第68代後一条天皇即位


 以上から、定子のサロンと彰子のサロンは、競い合っていたわけではなさそうです。
 彰子が12歳で入内して、定子はその1年後に逝去しています。
 式部が、道長の要請で宮中に出仕し、今だに亡き定子のことが忘れられない天皇の気持ちを物語の力で彰子の方に向けるため、源氏物語を書き始めたのは、1005年からで、定子の逝去から5年も後のことでした。


 ここからが、式部の凄いところで、衝撃的だったところです。
 第1帖「桐壺」から始まるのが肝です。
 ときの帝は、桐壺帝で、后に弘徽殿女御、桐壺更衣などあまたいましたが、帝は桐壺更衣のみを寵愛し、桐壺更衣が皇子を出産するに至って、桐壺更衣は他の妃達から嫉妬・虐めを受け、心労で皇子が3歳の時に逝去してしまいます。
 帝は、桐壺更衣の思い出にふける毎日で、忘れられずにいたところ、先の帝の皇女が桐壺更衣に瓜二つということで新たに后(藤壺女御)に迎えるというように続きます。


 この話は、当時、誰が見ても、桐壺帝は一条天皇、桐壺更衣は定子と思わせるものだったのだそうです。
 そして、2人の間に生まれた皇子が光源氏の設定となりますが、実際は光源氏のような行動はなかったようです。
 一条天皇が亡き定子が忘れられないでいるのに、帝の最愛の妃を定子と見立てた桐壺更衣とする設定は、彰子サイドには逆効果だと思われがちですが、そこが式部の深い計算なのだそうです。


 彰子は、幼くて、身近な者が亡くなった経験を持っていないので、一条天皇の定子を失った悲しみを共有できるようになって欲しい。それによって、一条天皇を慰めることにより、2人の絆が深まることを期するという戦略で書かれたものなのだとのことです。


 これにより、一条天皇は、源氏物語に興味を持ち、物語の続きを読むため、彰子の元に足繫く通うようになります。
 源氏物語は、一条天皇を第一の読者として、彰子の元に通わせるため、書き続けられます。


 続いて、彰子の父・道長は、彰子をヒロインとして登場させるように注文します。
 ここからも、式部の本領が発揮されます。
 今度は、一条天皇を光源氏に、彰子を若紫(将来の紫の上)になぞらえて、物語を展開させます。
 光源氏と若紫の年齢設定を一条天皇と彰子の年齢差と同じ8歳にしています。
 若紫は、彰子とは異なって、父親の後盾のないヒロインとしていますが、これからの彰子が学べるよう、今後の彰子のあるべき姿が、若紫になぞらえて描かれています。
 源氏は、幼い若紫に、女性のたしなみを一から教えるのです。
 そして、後盾が十分な女性達を恋敵として登場させるのですが、朧月夜(右大臣の娘)は出家、六条御息所は死して生霊となり、最愛の義母・藤壺は出家して死去などと、源氏の正妻に相応しいのは若紫しかいないという展開にするのです。
 これは、一条天皇を物語に引き込みます。
 天皇は、彰子をキチンと教育していけば、理想的な后になるのではないかという考えに至るのです。


 1008年、彰子は一条天皇との皇子(第68代後一条天皇)を出産し、翌年1009年には、後の第69代後朱雀天皇を出産します。
 式部は、一条天皇と彰子を結び付け、後の天皇を生ませるという道長からのミッションを達成することになります。
 本当に、神業のようですね。
 このような背景を持った話だとは露ほども知らず、ただただ紫式部の戦略に衝撃を受けました。


 ここまでが、第一部三十三帖の内容です。


つづく