終活事始め

最大の終活は、健康寿命をいかに長く維持し、周りに負担・迷惑をかけない取り組みをすることだと思います。

酸素と運動—ミトコンドリアとATP

 以前、美木良介さんの「120歳まで生きるロングブレス」に取り組んでいたことがありました。
 それは、あの石原慎太郎さんのテレビ出演を見たからでした。
 石原さんは、軽い脳梗塞発症以降、歩行困難になっていたところ、三木さんが「自分なら1年後に元気に歩けるようにできる」と名乗りを上げ、週1回、美木さんの指導の下、3段階の呼吸法を実践した結果、スクワットも連続で何回もこなせるようになり、大股の歩行もできるようになったという内容でした。
 長い呼吸をすることで脳に届く酸素量が増えるという理論の元、脳梗塞によってダメージを受けた脳神経細胞を活性化させるということでしたので、認知症をもっとも恐れる私としてはすぐに飛びついてしまいました。


 美木さんの「120歳まで生きるロングブレス」のDVD付き書籍の表紙には、石原さんの「美木さんに僕の命を預けました。」とのコメントがあり、購買意欲を高めていました。
 美木さんの理論は、ロングブレスの「強く長く吐く呼吸」によって、人間の体を構成する約60兆個の細胞の隅々に酸素を行き渡らせることができるので、代謝が上がり、血流が良くなり、高血圧・糖尿病などの生活習慣病の予防や改善、腰痛・ひざ痛などに効果が期待できるとともに、血流が良くなるので認知症の予防にもなるというものです。
 「吐けばボケない」「吐けば歩ける」「吐けば痩せる」、ロングブレスこそは長生きの秘訣ということです。


 具体的には、ロングブレスだけではなく筋トレも入ったもので、レッスンの構成は、第1章で基本のロングブレスのやり方、第2章で筋肉をほぐし、血管を活性化するロングブレス体操(15のエクササイズ)、第3章で歩行に必要な筋肉を重点的に鍛えるロングブレストレーニング(5つの筋肉の集中トレーニングと歩行に必要な筋肉を全部鍛える2分間リズム運動)というものです。


 しばらくはDVDを見ながら実践していましたが、NHKテレビのラジオ体操やウオーキングを始めた頃から遠のいてしまっています。
 ロングブレスのように「強く長く吐く呼吸」を意識しながら、ラジオ体操やウオーキング、そして筋トレをすれば同じではないかとの思いもありました。
 ここで、恥ずかしながら、私が大誤解をしていたのが、「有酸素運動」のことです。
 有酸素運動とは、呼吸を意識しながら行う運動だと思い込んでしまっていました。
 そして、疑問に思いながらも、酸素でありながら「活性酸素」が体に悪いとはどういうことかを解決することなく過ごしてきてしまいました。


 呼吸によって取り込んだ酸素の一部は、活性酸素へと変わるため、多くの酸素を取り込むとそれだけ活性酸素が作り出される量も増えるのならば、ロングブレスなどもっての外ということになってしまいますし、ジョギングやウォーキングなどの有酸素運動もしかりです。


 そこで、遅ればせながら、「有酸素運動」と「活性酸素」について、改めて調べてみることにしました。


 その前に、丁度のタイミングで、この話題にミクロで関連するNHKBSのヒューマニエンス「“ミトコンドリア”最も古く最も大切な友人」の放送を見て、驚きを持って知り得た事を纏めておきたいと思います。


 人間の生命活動の全てに、エネルギーが必要ですが、そのエネルギーを生み出すのは、細胞小器官であるミトコンドリアで、全体の約90%を生み出しています。
 呼吸をするのも、食事をするのも、ミトコンドリアに届けるためで、なぜなら、ミトコンドリアが酸素を使って、糖などからエネルギーを生み出し、人間の「生」を制御しているからです。
 そして、ミトコンドリアが劣化していくと、老化や病気の原因にもなり、細胞の死をも制御しているので、やがて死に至ることのなるのです。
 人間の体の中、赤血球を除いた全ての細胞の中に存在し、人間の健康にとって、非常に大事なものなのですが、今だ全容解明がなされていません。


 何故、人間の細胞にはミトコンドリアが取り込まれているかです。
 二酸化炭素で覆われていた20億年以上前の地球において、急激に酸素濃度が上昇し、人間の祖先である単細胞古細菌アーキア(A)とミトコンドリアの祖先であるアルファプロテオバクテリア(B)が細胞内共生を始めました。
 (A)は「嫌気性」なので酸素は猛毒となりますが、(B)は「好気性」なので酸素を使って消費してくれるため(A)が生きるには(B)の働きが不可欠であったことと、(B)が作り出すATP(アデノシン三リン酸)という全生物の生命活動に必要なエネルギー分子を得るためでした。
 共生することによって、(A)は莫大なATPを得て、複雑で高度なことができる細胞に変化し、進化を加速したのです。


 人間が体の中で生命活動に必要なエネルギー分子であるATPを作る方法は2つです。
 1つは、元々祖先から受け継いだもので、細胞質の中で糖を分解する過程で生み出す解糖系のもので、酸素を使わないものなのですが、生み出すATPは少量です。
 2つ目は、ミトコンドリアが酸素を使ってATPを生み出すもので、生み出す量は1つ目の十数倍になります。
 (ここで、有酸素有運動と無酸素運動の影が見えてきます。)


 ミトコンドリアとの共生が無ければ、生物の誕生はあり得ず、人の存在もあり得ませんでした。
 私たちの呼吸は、ミトコンドリアがATPを生み出すためとも言えるのです。


【生物学での呼吸の定義・NHK高校講座・学習メモから】
 「酸素を体内に取り入れ、細胞で有機物などを水と二酸化炭素に分解し、ATPを合成する一連の過程」
 「呼吸は、息などによるガス交換の外呼吸と、細胞の活動によるガス交換の細胞呼吸に分けられる。」
 息をすることで体の中へ酸素を供給する。
 肺から取り込まれた酸素は、血液や組織液によって体の隅々の細胞まで運ばれる。
 細胞の中に取り込まれた酸素は、ヒトが摂取した有機物などを水と二酸化炭素に分解する過程で使われる。
 有機物とは、炭素を含む化合物のことであるが、有機物を含めたあらゆる物質が分解されるときにはエネルギーが放出される。
 生物の場合、そのエネルギーをATPという物質に中に閉じ込め、さらにそのATPを分解することで様々な生命活動にエネルギーを使用する。
 有機物の分解で発生した一部の水(水蒸気)と二酸化炭素は、息として体外に吐き出される。


【学研キッズネットから】
 人間の体は、1つの工場に例えることができます。
 この工場で、人間は自分の体を動かすエネルギーを幾つも作っています。
 エネルギーを作るための材料は色々必要ですが、その中でも絶対になくてはならないものが、ブドウ糖と酸素です。
 ブドウ糖というのは、体の中で食べ物から作られます。
 一方、酸素は体の中で作ることはできないため、空気の中から呼吸によって、体の中の取り入れなくてはなりません。
 ブドウ糖は、体の中に少しは溜めておくことができますので、何日か食事をしなくても死ぬことはありません。
 しかし、酸素は溜めておくことができないため、いつも呼吸をして酸素を体に取り入れないと、人間は死んでしまうのです。
 水にもぐるときに息を止めていても少しは平気ですが、それは肺の中に残った空気から、ほんの少しの間だけ酸素を取り入れることができるからなのです。
 酸素は、もともと細胞を殺す力を持っており、今でも酸素に触れると死んでしまう細菌(嫌気性生物)などが、地中や深海に存在します。
 酸素に触れても平気な生物(好気性生物)は、この有害な酸素から身を守るための仕組みを体の中に持っています。
 その1つが、スーパーオキシドジスムターゼ(SOD)という酵素で、酸素を無害なものに変えてしまう働きをします。


 小学校から高校でこのような授業を受けたのでしょうか?
 記憶はありませんし、呼吸(酸素)は、体内の各細胞の生存に直接必要なものかと思っていて、エネルギーを作る材料だったなんて、無知を反省しています。


 そうすると、当然ながら体内にミトコンドリアが多い方がいいということになりますが、
ミトコンドリアは、増やせるようです。
 運動をするとミトコンドリアの量は増え、筋肉全体で有酸素的なエネルギー生産能力が高まるのです。
 最大酸素摂取量(運動中にミトコンドリアに取り込まれる酸素の最大量)は、ミトコンドリアの量の指標になるのですが、運動を継続すると、最大酸素摂取量は増加することが分かっているので、ミトコンドリアも増えていることになります。
 筋肉の筋細胞は繊維状になっていて、ミトコンドリアはその隙間に入り込んでいるのですが、その筋細胞を撮影した画像においても、運動を継続した前後でミトコンドリアの増加が見られることが確認できています。
 運動は、激しいほど、ミトコンドリアの増加には寄与するのですが、エレベータを使わず階段を使うとか、1日の歩く歩数を増やすことで、少しづつ有酸素能力を向上させれば骨格筋のミトコンドリアも増えていきます。


 ミトコンドリアがATPを作ってくれるのですが、その際、発生するゴミが活性酸素で、ミトコンドリアは常に活性酸素を出し続けています。
 活性酸素が漏出すると、たんぱく質や脂質に傷をつけてしまうのですが、それによってミトコンドリアDNAにも傷がついてしまい、突然変異の原因になってしまいます。
 そうなると、私たちの体に、老化や筋力の低下、心筋症のリスクを高めるなど、健康を損なう原因となります。


 長くなりますので、次週以降は「有酸素運動と無酸素運動」と「活性酸素」について纏めてみたいと思います。