終活事始め

最大の終活は、健康寿命をいかに長く維持し、周りに負担・迷惑をかけない取り組みをすることだと思います。

「がんの壁」を読んで【高齢者のがん】

 引き続き、佐藤典宏先生の「がんの壁」から高齢者のがんについてです。
 がんは、1981年(昭和56年)に日本人の死因第1位となって以降、増え続け、現在も死因原因のトップですが、この最も大きな要因は高齢化です。
 厚生労働省発表の令和4年平均寿命は、コロナ等の原因で2年連続下がっていますが、男性81.05歳、女性87.09歳です。


【閑話】
 平均寿命とは、0歳児の平均余命のことで、同時に発表されている75歳の平均余命は男性12.04年、女性15.67年です。
 男性は、75+12.04=87.04ということで、今75歳の方は87.04歳まで生きるということでしょうか?(1955年の男性平均寿命は63.60歳でした。)。
 この計算では令和4年の平均寿命を上回ってしまいます?
 よくわかりませんが、75歳男性の平均余命は12.04歳なので、69歳の私は75歳までの6年を足すと、平均余命18.04年ということなのでしょうか?
 ますます健康寿命をこれに近づけなくてはいけませんね。
【閑話休題】


 本題に戻ります。
 がんの最大の要因は加齢ですので、高齢になればなるほど発症しやすくなります。
 がんと診断される人の4人に3人は65歳以上の高齢者です。
 がんとの診断を受けていなくても、80歳以上の病死者の解剖では半数以上はがんに罹患していたとのデータもあるようです。


 なぜ、年をとるとがんになるのかですが佐藤先生は3つの要因を挙げています。
 1 遺伝子異常の増加
   がんを引き起こす直接的な原因は遺伝子異常です。
   人の細胞は分裂を繰り返していますが、その分裂時に元の細胞から体の設計図である
  遺伝子情報(DNA)が複製されます。
   この時に、一定の割合で複製エラーがおこるのですが、高齢者はこのエラーが多くな 
  ったり、エラーの修復機能が間に合わなかったり、紫外線など外からのDNA攻撃での損  
  傷が増えます。
   また、エピゲノムという遺伝子調整スイッチが加齢により機能が衰えます。
 2 免疫の弱体化(免疫老化)
   人の体には、がんを防ぐ免疫システムがありますが、免疫機能は40歳を境に低下し
  ます。
   免疫には、元々備わっている自然免疫と生まれてから獲得する獲得免疫があるのです
  が、獲得免疫は高齢になると著しく低下します。
   特に、この獲得免疫の1つであるT細胞(白血球の一部)はがんを防ぐためには不可  
  欠な免疫細胞なのですが、20歳を過ぎると供給が減ってしまいます。
 3 老化細胞による発がん促進作用
   人の細胞は分裂を繰り返していますが、その分裂回数には限りがあり、限界に達した  
  細胞は死滅せずに体の中に留まってしまいます。
   この老化細胞がたまっていくと、さまざまな炎症性タンパク質や発がんをうながす物
 質を周囲に分泌するようになるのです。


 高齢者のがんの進行は、若い人に比べて遅いと言われますが、がんの種類(部位)によっては高齢者の方が進行が早いという報告もあるそうです。
 がんは、年齢と関係なく進行が早いものと遅いものがあり、がんの進行する速さを決めるのは、年齢よりも「悪性度」で、がんが成長・進行(転移)する潜在能力とのことです。
 悪性度が低いがんは、進行が遅く、最初にできた部位(原発巣)に留まる傾向にあり、治療しなくとも数年にわたって進行せず、命をおびやかすことがない一方、悪性度が高いがんでは、あっという間に大きくなったり、まわりの臓器に移転してしまうのだそうです。
 これです!
 「がん放置療法」の近藤誠先生の“がんもどき”(転移が全身にひそんでいないがん)など抽象的な表現で理解できなかったことが理解できます。
 近藤先生は、“がんもどき”で臓器転移する力がないがんはがん全体の9割と言っていますが、佐藤先生はそこまでは示されていないので、近藤先生の数値は少し過大なのでしょね。


 佐藤先生は、がんの悪性度を決める5つの要因挙げています。
 1 がんが発生した部位(臓器)
   発生した部位によりおとなしい性格のものが多いものや逆に発生した部位に止まらず 
  周りの臓器や血管に侵入して転移することが多いものがあります。
 2 細胞(組織)のタイプ
   がんのもととなった細胞(組織)のタイプで、進行が早く、転移多いものがありま
  す。
 3 がんの分化度
   どの程度元の正常な特徴を残しているか、分化度が低いというのは正常の細胞とかけ 
  離れ悪性度が高いということ
 4 細胞増殖の速さ
   細胞増殖のスピードが速ければ悪性度が高いということ
 5 遺伝子変異(異常)の種類
   変異の有無や種類によって、がんの成長速度や転移する能力が異なり、特定の遺伝子
  の変異に有無により悪性度が変化すること


 また、高齢者のがんの特徴として6つの要因を挙げています。
 1 単純な平均余命だけで治療方針を決めない
   高齢者の中でも、元気な人と状態の悪い人の間には、本来の余命には差があること
 2 さまざまな持病を複数かかえている
   がん治療を安全に行う条件として、大きな持病がないこと、持病があってもきちんと
  治療できていること
 3 いくつもの薬を服用している
   薬の数が多いだけでなく、薬の相互作用による副作用のリスク増大や、飲み忘れにつ
  ながったりする状況になること
 4 身体・認知機能が低下している(老化現象)
   身体機能の低下が著しいときは、がんに対する治療効果があまり期待できないばかり
  でなく、死亡リスクが高まること
 5 社会的・経済的制限
   家族のサポートが得られない場合などには、後遺症のリスクが高い手術など積極的な
  がん治療をあきらめざるを得ないこと
 6 個人差が極めて大きい
   身体的・精神的機能、社会的・経済的制限の差が大きいこと


 高齢者のがんに対する治療方針の決定では、単に「がんが治るかどうか」だけではなく、患者の日常生活のパターン、体力、生活スタイル、経済状況、家族構成といった様々なことを含めて慎重に判断しなければなりません。
 ですから、後悔しないために、医師や家族の言いなりになるのではなく、がんに対する一定の知識を持つとともに死生観といっては大袈裟さかもしれませんが残された人生で何を優先するかという価値観を確定しておきたいと思います。