終活事始め

最大の終活は、健康寿命をいかに長く維持し、周りに負担・迷惑をかけない取り組みをすることだと思います。

仏、神、そして国…

    前回の「葬儀と陵苑墓について」の中で、宗教と宗派について書きましたので、終活とは離れますが、もう少し書き足してみたいと思います。
 仏教の仏たちや神道の神たちの多さには驚きます。


 仏様と仏像については、枻出版社の「仏像の基本」によれば、仏教の開祖、お釈迦様の姿を像にした「釈迦如来」が作られ、その後、人々の願いを叶えるために様々な役割を持った仏様と仏像が作られていき、今では数えきれないものになっているとのことです。
 法隆寺金堂は、釈迦如来、薬師如来、阿弥陀如来の三大スター揃い踏みです。高野山真言密教になると根本大塔など大日如来がメインですが、金堂には薬師如来など他の仏もおわしまし、比叡山は、根本中堂に最澄自作の薬師如来、大講堂や東塔に大日如来、僧侶が受戒する戒壇院には釈迦如来、阿弥陀堂や釈迦堂もあり、実に多くの仏がおいでになります。
 同じ寺・宗派でも特定の1つの仏ではありませんし、宗派が異なっても同じ仏像である場合も多いですね。


 神々については、扶桑社の「マンガならわかる!日本書紀」によれば、陰と陽が分かれることなく交り合っていたところ、やがて、天と地に分かれ、神さまも生まれ始め、ついにイザナキノミコトとイザナミノミコトも生まれ、そして日本を「国生み」されます。そして、たくさんの神々もお生みになりました。イザナギが亡くなった妻のイザナミに会いに黄泉の国へ行った禊のときにも様々な神々をお生みになり、その中にアマテラス、ツクヨミ、スサノオもおいでになりました。
 そうして生まれた八十万の神々は天岩戸のときも協力し合い、八百万の神々となった今でも神無月には出雲大社にお集まりになります。
 複数のご祭神を祀る神社も多いですね。
 三社祭でお世話になる浅草神社は、観音様を投網に掛かけた漁師の兄弟とそれを祀った土地の知識人の三人をご祭神にしています。
 仏さまにしても神さまにしても実に多くいらっしゃいます。


 私が驚いたのは、世界史の講義や地政学で高名な茂木誠先生によれば、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教の3つの宗教の「神」は共通だということです。
 「預言者」、これは「神」の言葉を預かって、神様はこのようなことをおっしゃっていますと伝える者ですが、預言者“モーセ”が語った神の言葉が「旧約聖書」でユダヤ教経典、(預言者)“イエス”が語った神の言葉が「新約聖書」でキリスト教経典、預言者“ムハンマド”が語った神の言葉が「コーラン」でイスラム教経典とのことです。
 キリスト教では、イエス自身はユダヤ教の改革者で、弟子のペテロやパウロにより神として祭りあげられたので「預言者」ではないとされています。このため、イエスを神と絶対に認めないユダヤ教との根本的違いで、対立の原因なのだそうです。
 イスラム教は、モーセもイエスも預言者で、その後も何人も存在したけれど、神が最後に選んだ預言者がムハンマドであって、ムハンマドが語ったコーランも律法でコーラン戒律を守った者だけが救済されるという考えのようです。
 コーランには、ユダヤ教徒、キリスト教徒も同じ「神」の言葉を信じる「啓展の民」であるから尊重するようと書かれているのだそうです。
 ユダヤ教とイスラム教は偶像禁止(神はあまりにも偉大であるから、人間ごときが神の姿を絵や彫刻にすることはできない)なのに対し、キリスト教はイエスやマリアだけでなく弟子のペテロ、パウロまで偶像化して信仰していることも対立の原因なのだとか。
 教義も全くわからないので、云々述べるつもりは毛頭ないのですが、日本には数多の神仏があるのに対して、この3つの宗教の「神」が同じということ、預言者によって「神」の言葉がこんなにも違うことにただ驚くばかりです。


 終活とさらに離れてしまいますが、この聖地に関わる内容で、NHKの映像の世紀バタフライエフェクト「砂漠の英雄と百年の悲劇」を見ました。
 中東パレスチナの地には、神を同じくするイスラム教、キリスト教、ユダヤ教の3つの宗教の聖地であるエルサレムがあります。
 エルサレムは、古代ユダヤ国家の首都であったもののローマ軍に破壊され、中世以降はイスラム教徒に支配されていました。
 この地で起こったことは、茂木先生によれば次のようになります。
 《現在、多くの国に切り刻まれている中東地域は、20世紀初頭までは400年以上オスマン帝国として、トルコ人の皇帝により、イスラム教(スンナ派)を国教として緩やかに統治されており、異教徒に対する迫害はほとんどなく、他宗教・他民族の自治保護がされていた。それが、オスマン帝国の解体により不安定が生じた。》
 ≪第一次世界大戦でドイツと組み大敗したオスマン帝国に対して、イギリスが独立援助を約束してアラブ人に反乱を引き起こさせた。アラビアのロレンスの映画の通り、イギリス人の情報将校ロレンスがアラブ軍の訓練をし、武器を支給するとともに、実戦でも指揮を執り勝利に導いた。》
 《その一方で、オスマン帝国の敗北が濃厚になると、イギリスはフランス、ロシアとともにアラブ人居住地区の分割の密約を結び、領土分割は、現地の民族・宗教の分布を無視して行った。現在のアラブ諸国の国境線は、このときの分割線を引き継いだもので、今日に至る幾多の紛争と戦争の種になっている。》
 《また、イギリスは、戦時国債の引き受けを条件に、パレスチナにおけるユダヤ国家の建設を約束する。国際管理とされたパレスチナは、イギリスが委任統治しており、ユダヤ人の受け入れが始まった。アラブ人とユダヤ人の共存関係に亀裂が入り、双方幾多の悲劇を繰り返してイスラエル国家が建設された。》ということです。
 番組でも、オスマン帝国時代、アラブ人とユダヤ人は互いに祝いの席に招待したり、一緒に食事をしていたこと、1917年ユダヤ人がエルサレムに入城してからも、アラブ人とユダヤ人はいずれも同一神で共通の類似性が非常に大きいのだから兄弟のように暮らさなくてはいけないという意識があったこと、しかし、ナチスの台頭による迫害を逃れるため多くのユダヤ人がパレスチナに流入し、貧しいアラブ人から土地を買い上げ、町を作り上げてゆき、アラブ人とユダヤ人の共存関係に亀裂が入り、アラブ人による抗議や反乱が頻発したこと、イギリスによる調停が失敗(アラブ人のイギリス不信)し、そこに住んでいたアラブ人75万人が追い払われ、パレスチナ難民となったが、新たな犠牲者の発生は顧みられなかったという辛い歴史が描かれていました。


 この番組で心に残ったことは、次の3つです。
 パレスチナにはイスラエルが2002年建設開始した全長700Kmに及ぶ分離壁があり、2つの民族、アラブ人とユダヤ人の分断を象徴しています。2005年そこにイギリス人のバンクシーが平和への願いと暴力への批判を込めた絵を描いています。後に、バンクシーはイギリスの裏切りが対立を招いたことを謝罪するとしたそうです。


 ロレンスは、イギリス政府の裏切りを知り憤ったが、戦争が終わればアラブ人に対する約束は反故同然になると知りながらその事実は伏せたままアラブの反乱を鼓舞し続けた。ロレンスの最期の言葉「年がたつにつれ私は自分が演じた役割をますます憎み軽蔑するようになった。もしも私がアラブ人に対するイギリスの取り決めをなくすことができたならばいろいろな民族が手を取り合う新しい共和国を作れたのかもしれない。アラブ人とユダヤ人は強国の圧政に苦しんだ従兄弟のような存在だ。アラブ人がユダヤ人を助けユダヤ人がアラブ人を助ける未来を私は願っている。」


 ユダヤ人のアインシュタインはイスラエルとアラブ人が共存する国家を願っていた。「イスラエルが最も重視すべきなのはアラブ人に完全な平等を保障したいという願望を常に抱き、それを明確に表し続けることでなければなりません。アラブ人に対してどんな態度をとるかが民族としての私たちの道徳水準が試される本当の試金石になります。」


 ナショナリズム、自国第一主義・権益拡大の圧力、独裁主義、専制主義は、宗教さえも弾圧しますし、宗教の名を借りてますますの悲劇を生み出しているのではないでしょうか。
 死ぬことに恐れはありませんが、そんなものに、翻弄され、巻き込まれて死ぬのは絶対にいやです。



茂木先生の「地政学」の講演を拝聴する機会に恵まれ、その慧眼と地政学の面白さに魅せられ次の著作を拝読しています。
  世界史で学べ地政学
  世界史とつなげて学べ超日本史
  「戦争と平和」の世界史
  ニュースの“なぜ?”は世界史に学べ
  ニュースの“なぜ?”は世界史に学べ2
  世界のしくみが見える世界史講義
  イエス・キリストと神武天皇